計量経済学で使う統計学、数学の書籍、教科書
計量経済学のおすすめ本(教科書・参考書) – 入門・初級・上級(大学学部/大学院修士)を確認する。
計量経済学の統計学、数学のの書籍おすすめ一覧
1. 完全独習 統計学入門
10. 現代数理統計学(竹村)
11. 解析入門Ⅰ (杉浦光夫)
13. ルベーグ積分入門 (伊藤清三)
15. 測度と確率 (小谷眞一)
16. 凸解析と最適化理論 (田中謙輔)
17. 統計的推定の漸近理論 (竹内啓)
18. Statistical Inference(Casella & Berger)
19. Matrix Algebra(Abadir & Magnus)
20. Statistics(Abadir, Heijmans & Magnus)
21. Understanding Analysis (Stephen Abbott)
22. Real Mathematical Analysis (Charles C. Pugh)
23. Probability with Martingales (David Williams)
24. Probability and Measure (Patrick Billingsley)
25. Convex Optimization (Boyd, Vandenberghe)
26. Further Mathematics for Economic Analysis (Sydsæter, Peter, Seierstad, Strøm)
計量経済学では、どのような数学・統計学を使うのか
計量経済学では、経済データから関係性を読み取り、仮説を検証したり、政策や経済行動の因果効果を推定したりするために、数学と統計学を幅広く利用します。
ただし、最初から高度な数学をすべて理解している必要があるわけではありません。入門段階では高校数学や大学初年度程度の統計学から始まり、学習が進むにつれて、線形代数、微積分、確率論、数理統計学、そして漸近理論へと発展していきます。
入門:平均・分散・相関から回帰分析へ
計量経済学の入門段階では、まず平均、分散、標準偏差、共分散、相関係数といった基本的な統計量を理解することが重要になります。
たとえば、確率変数 \(X\) の平均は
\[
E[X]
\]
と表され、分散は
\[
Var(X)=E[(X-E[X])^2]
\]
と表されます。
こうした概念を使って、「所得が高い人ほど消費額も大きいのか」「教育年数と賃金にはどの程度の関係があるのか」といった、経済変数同士の関係をデータから調べます。
そして、計量経済学の最も基本的なモデルとして、
\[
Y_i=\beta_0+\beta_1X_i+u_i
\]
という線形回帰モデルを学びます。
ここで \(Y_i\) は説明したい変数、\(X_i\) はその説明に用いる変数、\(u_i\) はモデルでは説明しきれない要因を表します。
入門段階では、このモデルの係数\( \beta_0 \) や \( \beta_1 \) をデータからどのように推定するのか、そして推定された値が統計的に意味のあるものなのかを判断するために、OLS(最小二乗法)、標準誤差、t検定、信頼区間などを学んでいきます。
中級:線形代数・微積分・確率論を使って考える
中級レベルになると、単回帰だけではなく、多数の説明変数を含む重回帰モデルを扱うようになります。
そのため、計算や理論を簡潔に表現するために線形代数が重要になります。
回帰モデルは行列を使って、
\[
\mathbf{y}=\mathbf{X}\boldsymbol{\beta}+\mathbf{u}
\]
と表すことができます。
OLS推定量も、
\[
\hat{\boldsymbol{\beta}}
=
(\mathbf{X}’\mathbf{X})^{-1}
\mathbf{X}’\mathbf{y}
\]
のように行列を使って表現できます。
この段階になると、ベクトル、行列、逆行列、転置行列、行列の階数などの知識が、計量経済学の理論を理解するために必要になってきます。
また、最尤法などの推定方法を理解するためには、微分や偏微分、最大化・最小化といった微積分の考え方も重要になります。
たとえば最尤法では、未知のパラメータ\( \theta \)について尤度関数を最大にする値を求め、
\[
\hat{\theta}
=
\arg\max_{\theta} L(\theta)
\]
のように推定量を定義します。
さらに統計学では、単に平均や分散を計算するだけではなく、確率分布、条件付き期待値、標本分布、推定、仮説検定をより体系的に学んでいきます。
特に、
\[
E[u_i \mid X_i]=0
\]
のような条件付き期待値を使った仮定は、
「なぜ回帰係数を正しく推定できるのか」を理解するうえで
非常に重要になります。
上級:推定量そのものの性質を数学的に考える
大学院レベルになると、数学や統計学は単なる計算の道具ではなく、推定方法がなぜ正しいのかを証明するための言語になっていきます。
たとえば、あるパラメータ \( \theta_0 \) を推定するために、
\[
\hat{\theta}
=
\arg\min_{\theta}Q_n(\theta)
\]
という一般的な推定量を考えます。
すると重要になるのは、単に \( \hat{\theta} \) を計算できるかどうかではありません。
標本数 \(n\) が大きくなったときに、推定量が真の値 \( \theta_0 \) に近づいていくのかを考えます。これは一致性と呼ばれ、
\[
\hat{\theta}
\xrightarrow{p}
\theta_0
\]
のように表されます。
さらに、推定誤差が大標本のもとでどのような確率分布に近づくのかを調べます。典型的には、
\[
\sqrt{n}
(\hat{\theta}-\theta_0)
\xrightarrow{d}
N(0,V)
\]
のような漸近正規性を導きます。
このような結果を導くために、大数の法則、中心極限定理、確率収束、分布収束といった確率論の知識が重要になります。
上級計量経済学における数学
上級計量経済学では、線形代数や微積分もさらに一般的な形で使われるようになります。
たとえば複数のパラメータを同時に推定する場合には、ベクトル微分、勾配、ヘッセ行列などを利用します。
目的関数 \(Q(\theta)\) を最小化する問題では、
\[
\frac{\partial Q(\theta)}
{\partial \theta}
=0
\]
という一階条件を利用し、さらに二階微分を使って解の性質を調べます。
最尤法、非線形最小二乗法、M推定、一般化モーメント法(GMM)なども、こうした最適化問題として統一的に理解できるようになります。
上級計量経済学における統計学
統計学についても、「t検定の公式を使う」という段階から、なぜその検定統計量がその分布に従うのかを理論的に考える段階へ進みます。
特に重要になるのが、推定量の一致性、漸近分布、効率性、識別、統計的推論です。
たとえばGMMでは、
真のパラメータ \( \theta_0 \) が
\[
E[g(Z_i,\theta_0)]=0
\]
というモーメント条件を満たすことを利用して、パラメータを推定します。
このように大学院レベルでは、OLS、操作変数法、最尤法、GMMなどをそれぞれ独立したテクニックとして覚えるだけではなく、推定と統計的推論という共通した理論の中で理解するようになります。
さらに理論的な計量経済学へ
計量経済理論をさらに専門的に学ぶ場合には、数理統計学や確率論そのものも、より高度になります。
確率変数列の収束、条件付き期待値、確率過程、ノンパラメトリック推定、セミパラメトリック推定などを扱うようになり、分野によっては実解析や測度論の考え方も利用されます。
ただし、これらはすべての実証研究者が同じ深さまで学ぶ必要があるという意味ではありません。理論計量経済学に近づくほど、より高度な確率論・解析学が必要になる、という位置づけになります。
入門から上級までの流れ
計量経済学に必要な数学・統計学を大まかに整理すると、
次のように発展していきます。
入門:
平均・分散・相関・確率分布・単回帰・t検定
↓
中級:
重回帰・線形代数・条件付き期待値・微積分・最適化・最尤法
↓
上級:
確率収束・大数の法則・中心極限定理・一致性・漸近正規性・識別・GMM
↓
理論計量経済学:
高度な確率論・実解析・測度論・確率過程・ノンパラメトリック/セミパラメトリック推定
つまり、計量経済学における数学と統計学は、最初は「データを分析するための道具」として登場し、学習が進むにつれて、「推定方法がなぜ正しいのかを説明し、証明するための理論」へと変わっていきます。