はじめての人のための経済学史 (経済学叢書Introductory)

経済学史の各トピックを厳選して解説する斬新な構成のテキスト

 

経済学史をはじめて学ぶ読者に向けて、これまでに学んだ世界史の知識との接続も意識しながら、親しみやすく解説した入門書であった。アダム・スミス、マルクス、ケインズをはじめとした主要な経済学者に加え、ゲーム理論、進化経済学などの話題も取り上げ、各章で解説するトピックを1つに厳選することで、個々の経済学者の中心となっている考え方をしっかりと捉えられるよう配慮してあり、経済学史の概観をつかむのに役立ちそうだと感じた。

はじめに

本書は、経済学史を学ぶ学生がはじめて手にして、自分の力で読むことを想定した入門書です。

経済学史、経済思想史にはすでに優れた教科書があり、ある程度以上の知識と関心を持った学習者にとって新たに作られたテキストは不要かもしれません。しかし、残念ながら、経済学を学ぶ多くの学生、特に初学者にとってそれらの 教科書のほとんどは自力で読むには高度すぎるのが難点でした。

これは近年の経済学の教科書の多くが、その分野の専門家たちが各章を分担して執筆するという形を採るためです。この方法には、内容は非常に濃いもの となるというメリットがある反面、高校時代に世界史すら履修したことがない 学生たちにとって難しすぎる教科書になってしまうことがあるというデメリッ トもあります。既存の教科書の中には、初学者が独習に用いることがほとんど 不可能な水準のものもあります。

本書は、筆者が本務校で行っているリバースラーニング型授業で用いること を前提として書かれています。リバースラーニングとは、基礎的な知識は学生 が講義外の学習で習得し、授業ではそれを元にしたディスカッションやプレゼ ンテーションに当てるという授業形式を指します。そのための教科書は、できる限り学生が1人で読んだときに理解できるか、あるいは理解できないところ がわかる程度であることが望ましいとされています。

本書では、わかりやすさを実現するためにいくつかの工夫を行いました。第 一に、世界史を履修していない学生が読むことを想定して、それぞれの経済学 者が生きた時代と国について、通常の教科書より多めに解説しています。その 際に参考にしたのが、高校の世界史の教科書と年表であり、中学校以降世界史 を履修していない学生にも理解できるように配慮しました。もちろん、世界史 を履修したことのある学生にとっては、高校時代の勉強の続きとして読むこと もできます。この方法の弊害として、世界史との直接的関係がわかりにくい経済学者が脱落することが挙げられます。特に通常の経済学史の教科書には必ず載っている、 J. S. ミルとJ. A. シュンペータの章が欠けていることの問題点は認識しています。しかし、本書では重要な経済学者を網羅することより、あくまで理解しやすいことを優先しました。

第二に、可能な限り、1章1トピックに限って解説するように心がけました。 経済学説史研究の対象となるような偉大な経済学者はそもそもの関心が多岐に 渡るし、現在のように専門分化が進んでいなかったため、広範な分野で活躍していることが普通です。ですが、経済学史研究者になるか、趣味で経済学者の 思想を学びたいという人を除けば、個々の経済学者の議論をすべて覚えること はほとんど意味がないでしょう。それよりもむしろ、個々の経済学者が、それぞれの目の前に置かれた事情に対して、どういう考え方をしたのか、すなわち その思考の方法を捉えることの方が得ることが多いと考えました。

経済は、現代社会に生きる人々であれば、誰もが直面するものです。お金が なければ生きていけませんし、お金を手にするため、あるいは手にした後でも 経済活動を行う必要があります。町の書店に行けば数多くのビジネス書が並んでいます。そういう書籍は必ずしも経済学の専門家が書いたものではありませ ん。玉石混淆であるということを置いておいても、いかに多くの人たちが経済 に対して一家言あるかということがこのことからもわかります。

その反面、経済社会は、非常に複雑で、一面的な理解を受け付けないところ があります。そんなとき、先人たちが何を見てどう考えたかを知ることは、読 者が自分自身の経済観、社会観を作り上げるときの手助けとなるでしょう。

最後に、株式会社新世社編集部の御園生晴彦様に深くお礼申し上げます。なかなか完成しない原稿を辛抱強くお待ち頂き、かつ原稿の改訂に重要なご示唆 を頂きました。ですが、本書の問題点に関するすべての責任は執筆者本人にあります。

2015年2月9日

江頭 進

江頭 進 (著)
出版社 : 新世社 (2015/7/1)、出典:出版社HP

 

 

目次

 

第1章 ジョン・ロック:私的所有権の起源

1.1 ジョン・ロックの生涯

1.2 ロックの時代

1.3 ロックの3権

1.4 社会契約としての国家

1.5 階級闘争の時代

1.6 まとめ

補論 なぜ最初にイギリスで産業革命が起こったのか?

 

第2章 アダム・スミス:市場社会の基礎理論

2.1 アダム・スミスの生涯

2.2 スミスの時代のイギリス

2.3 アダム・スミスの道徳哲学

2.4 分業が生み出す成長

2.5 重商主義の教訓

2.6 労働価値説と自然価格

2.7 自由市場と国家の役割

2.8 まとめ

 

第3章 リカードとマルサス

3.1 ナポレオンの時代

3.2 リカードとマルサスの生涯

3.3 リカードとマルサスの論争

3.4 まとめ

 

第4章 カール・マルクス

4.1 資本主義社会の成長の影

4.2 労働価値説に基づいた経済学

4.3 搾取の構造

4.4 修正主義論争

4.5 帝国主義論

4.6 まとめ

 

第5章 限界革命

5.1 1870年とはどんな時代か

5.2 主観的価値論

5.3限界革命の3人の主役

5.4 限界効用理論

5.5 限界革命トリオの目指したもの

5.6 まとめ

 

第6章 アルフレッド・マーシャル

6.1 マーシャルの時代

6.2 マーシャルの理論

6.3まとめ

 

第7章 ソーステイン・ヴェブレン

7.1 ヴェブレンの生きた時代

7.2 進化論と経済学

7.3 ヴェブレンの社会理論

7.4 ビッグビジネスの支配する産業社会

7.5 恒久的平和に向けて

7.6 まとめ

 

第8章 ジョン・メイナード・ケインズ

8.1 ケインズの生きた時代

8.2 ケインズの略歴

8.3 『雇用・利子および貨幣の一般理論』

8.4 マクロ経済政策という考え方

8.5 資本主義の限界を超えて

 

第9章 フリードリッヒ・ハイエク

9.1 ハイエクの生きた 20世紀

9.2 ハイエクの経済理論

9.3 ハイエクの社会観・人間観

9.4 自由主義思想

9.5 まとめ

 

第10章 ミルトン・フリードマン

10.1 フリードマンの生きた時代

10.2 実証主義へのこだわり

10.3 恒常所得仮説

10.4 自然失業率仮説と長期フィリップス曲線

10.5 フリードマンの自由論

10.6 まとめ

 

第11章 ゲーム理論

11.1 ゲーム理論の時代

11.2 ゲーム理論の発達史

11.3 ナッシュ均衡

11.4 進化ゲーム理論の登場

11.5 ゲーム理論の生まれた背景

11.6 まとめ

 

第12章 進化経済学と経済学の未来

12.1 経済学の裏歴史

12.2 進化経済学とは何か

12.3 経済学に未来はあるのか?

 

参考文献

索引

著者紹介

 

 

参考年表

表(IMG_6620.JPG~IMG_6625.JPB)省略

江頭 進 (著)
出版社 : 新世社 (2015/7/1)、出典:出版社HP