商社が「データ」をどう使ってきたか

 

商社が「データ」をどう使ってきたか

 

1) 「情報(=データ)」が商社の強みになった出発点:戦後の再開と通信の高速化(1950年代〜)

戦後、日本の貿易は管理貿易から始まり、1950年の自由貿易再開を経て商社の活動が活発化し、1960年代前半までに総合商社群が成立していった、という整理がされています。
この時代の“データ活用”は、まず「遠隔地の情報をいかに速く、安く、確実に取り込むか」でした。

 

その象徴がテレックスです。神戸大学のディスカッションペーパーは、海外通信でのテレックス採用について「『1953年に伊藤忠商事が初めて国際テレックスを導入』」と書き、続けて「『1956年までにほとんどの大手商社が国際間の通信にテレックスを採用』」したと述べます。

つまり、商社にとってデータ活用の初期形は、(今日で言うデータ基盤というより)“通信インフラ”を自前で整え、海外拠点から価格・需給・案件情報をいち早く回収する仕組みでした。

 

 

2) 高度成長期:「ネットワーク×市況データ」で仲介価値を作る(1960〜70年代)

当時は「情報量も少ない」環境で、商社が世界各地に拠点と通信網を張ること自体が差別化でした。ある論考は、総合商社が「『テレックスなど…通信網を独自整備』」し、その結果「『資源相場情報を先行入手し、サヤ取り収益も稼げた』」と描写しています。

ここでのポイントは、データが単なる記録ではなく、裁定(サヤ取り)・交渉・調達の意思決定を早める武器として扱われていたことです。言い換えると、商社は「物流の仲介」だけでなく「情報(データ)の仲介」でもあった、ということになります。

 

 

3) 社内の“計算機化”:取引量の増大に耐える会計・管理データ(1960〜80年代)

取引量が膨らむと、外部の市況データだけでなく、社内の取引・在庫・債権債務などの管理データが急に重要になります。住友商事の有価証券報告書由来の資料では、同社が「1969年に住商コンピューター・サービス(現SCSK)を設立」したことが記されており、早い段階から情報処理体制を内製化していったことがわかります。

この時代のデータ活用は、いま風に言うと“バックオフィスDXの前史”で、巨大な取引件数を“回す”ための仕組み(会計・業務処理・管理会計)が中心でした。

 

 

4) 企業間データ連携(EDI)の時代:貿易・物流で標準に合わせる(1980〜90年代前半)

1980年代後半からは、企業間で受発注データを交換する EDI(電子データ交換) が本格化します。国土交通省系の報告書は、国際標準 UN/EDIFACT が「1987年に開発され、国際物流での利用が必須となり…船社や商社による対応が求められていた」と整理しています。

つまり、商社は単に自社最適でなく、国際標準・業界標準に合わせてデータを整形し、相手先とつなぐ役回りを負うようになります。

同時期の日本のEDI史資料には、「1981年、三井物産がシンプルデータ転送システムを採用した」という記述もあり、企業間データ交換の仕組みが早くから実装されていったことが示唆されます。

 

5) 1990年代後半:EDIからERP・インターネットへ(“社内データ統合”の転機)

2001年の日本貿易会レポートは、1990年代半ばまでの企業間取引について「“cyber activity was dominated by electronic data interchange (EDI)”」とし、商社が仲介する限定的な受発注データ交換が中心だったと振り返ります。
そして90年代後半には「企業情報がERPで集中管理」され、インターネットでデータ交換が進む、と流れが変わったと述べています。

ここは大きな転換点で、商社のデータ活用は相手先とつなぐ(EDI) だけでなく、社内の情報を統合して経営判断に使う(ERP)へ重心が移っていきます。

 

6) 2020年代:AI・データ流通の信頼性へ(“予測”と“真正性”が価値になる)

近年は、物流・需給・在庫のような現場データを集めてAIで予測し、オペレーションを変える方向が目立ちます。物流業界ニュースは、センコーが、三菱商事とNTTの共同出資会社と連携し、「物流センターの入出荷データなどを活用して構築したAI需要予測モデル」を実証した、と報じています。(商社は“モノの流れ”を押さえているので、データが集まる場所にもなりやすい、という構造があります。)

同時に、データが広く流通するほど「そのデータは本物か」「改ざんされていないか」が価値の前提になります。伊藤忠テクノソリューションズは、慶應義塾大学SFC研究所と「データ流通の信頼性向上」に向けた共同研究(身元詐称や改ざん検証の汎用的仕組み等)を開始したと発表しています。

これは、商社が従来やってきた与信・契約・物流の世界を、“検証可能なデータ”で支える方向とも相性が良い領域です。さらに生成AIは、社内の文書・規程・議事録など“非構造データ”の扱いを変えています。