商社データ人材の組織の置かれ方 – 事業会社・本体・グループDX会社のあいだで働く
事業会社・本体・グループDX会社のあいだで働く――商社データ人材の組織の置かれ方
総合商社のデータ人材を考えるとき、まず押さえておきたいのは、Big Tech のようにひとつのプロダクト組織の中で完結する働き方とはかなり違うということです。商社では、データサイエンティストやアナリストが「本体」にだけいるわけでも、「事業会社」にだけいるわけでもありません。実際には、本体のデジタル・DX組織、各事業会社や現場、そしてグループのDX会社・ICT会社のあいだにまたがって配置され、それぞれ少しずつ役割を変えながら機能していることが多いです。
そのため、商社のデータ人材を理解するには、「どんな分析をしているか」だけではなく、「どの組織に置かれているか」を見ることが重要です。同じデータ活用でも、本体にいれば全社横断の戦略や基盤整備に近くなり、事業会社にいれば収益や業務改革に直結し、グループDX会社にいれば専門性を武器に複数事業を支援する立場になりやすいからです。
商社のデータ人材は、ひとつの部署に閉じず「三層」に分かれて置かれやすい
商社のデータ人材の置かれ方を大きく分けると、本体、事業会社、グループDX会社の三層で見ると分かりやすいです。本体は全社方針や共通基盤、事業横断の変革を担い、事業会社は個別事業の現場で収益改善や業務改革を担い、グループDX会社は技術と実装の専門家としてその両方を支える立場になりやすいです。商社では、この三つの層が分業しているというより、相互に行き来しながら機能していることが多く、そこにデータ人材の特徴があります。
本体に置かれるデータ人材は、「全社最適」と「共通基盤」に近い
商社本体に置かれるデータ人材は、特定の一事業だけを見るというより、全社のデジタル戦略や共通基盤づくりに近い役割を担いやすいです。三井物産では、Digital Transformation チームと IT 推進部を統合してデジタル総合戦略部をつくり、DX総合戦略をもとに全社の案件を推進してきたことが説明されています。伊藤忠商事でも、全社データ統合基盤「HANABI」を整備し、BICC というデータ分析のプロ集団を内製化したうえで、グループ会社のデータを活用した発注数量・在庫最適化などの案件を進めています。こうした本体側のデータ人材は、特定プロダクトの改善者というより、全社横断のルールメーカーや共通基盤の設計者に近いです。
事業会社や現場側に置かれるデータ人材は、「業務と収益」に最も近い
一方で、事業会社や事業現場に近い場所に置かれるデータ人材は、より具体的な業務改善や収益向上に直結しやすくなります。伊藤忠商事のデータ活用でも、サプライチェーン全体の効率化、発注数量・在庫の最適化といった、事業そのものに直結する案件が前面に出ています。双日の “Digital-in-All” も、すべての事業にデータやテクノロジーを入れ、既存ビジネスの価値向上と新たな事業創出を進める方針として語られています。こうした層では、データ人材は分析レポートを作る人というより、現場のKPIやオペレーションを直接変える役割として置かれやすいです。
グループDX会社は、「専門性を集約した内製パートナー」として機能する
商社グループに特有なのが、グループDX会社やICT会社が強い存在感を持つことです。住友商事は DXセンターを設けたうえで、さらに技術専門集団として Insight Edge を設立し、データ分析、プロトタイプ開発、先端技術の取り込みを担わせています。MC Digital は三菱商事100%出資のテクノロジーカンパニーとして、三菱商事が手がける全産業をフィールドに課題解決を行うとしています。MCD3 も、共創によるビジネス変革支援、AI・データサイエンスを活用したソリューション提供を掲げています。丸紅I-DIGIOも、丸紅グループ内のICT事業会社を集結させたデジタルの専門家集団として位置づけられています。これらの会社は、単なる外注先ではなく、商社グループ内の「内製パートナー」として機能している点が重要です。
本体・事業会社・DX会社は、上下関係というより「役割の違い」で分かれている
この三層構造を、単純に本体が上でグループ会社が下という上下関係で理解すると、実態を見誤りやすくなります。実際には、本体は全社戦略や基盤づくりに強く、事業会社は現場課題と収益責任に強く、グループDX会社は技術・分析・実装の専門性に強いというように、役割の違いで分かれていると見たほうが自然です。住友商事が DXセンターと Insight Edge を併置していることや、三菱商事が本体の事業変革と MC Digital / MCD3 のような専門会社を併用していることは、その典型です。つまり、どこが上位かよりも、どの組織がどの機能を持つのかで見るほうが分かりやすいです。
商社のデータ人材は、「分析者」より「接続者」として価値を出す
この組織構造の中で、商社のデータ人材に求められるのは、単独で分析を完結させる能力だけではありません。むしろ、本体の戦略と現場の課題、事業会社のニーズとDX会社の専門性、経営の意思とデータ基盤の制約をつなぐ「接続者」としての力が重要になります。Insight Edge が「現場との共創」を強調していることや、三井物産がデータドリブン経営を全役職員の標準装備にしていくと述べていることからも、商社のデータ人材は孤立した専門職ではなく、複数の組織をつなぐ役割を果たしていることが分かります。
キャリアもまた、「一本の職種ラダー」ではなく「組織間の移動」でできていく
このため、商社のデータ人材のキャリアは、Big Tech のようにひとつの職種ラダーを昇っていく形とは少し違います。データサイエンティストとして入っても、ある時期は本体の横断組織で基盤や戦略に関わり、別の時期には事業会社に近い場所で現場の収益改善を担い、さらにグループDX会社で専門性を磨くといった動き方が十分にあり得ます。双日の社員インタビューでも、事業投資やIT企業案件を経験した人材がデジタル共創推進部へ移り、デジタル関連企業のバリューアップに携わっている例が示されています。商社では、所属先の違いそのものがキャリアの幅をつくると考えたほうが近いです。
だから商社のデータ人材は、「どの組織で働くか」まで含めて見たほうがいい
商社のデータ職を考えるとき、「データサイエンティストという職種かどうか」だけで判断するのは十分ではありません。むしろ重要なのは、その人材が本体、事業会社、グループDX会社のどこに置かれ、どの組織の論理で働いているかです。本体なら全社最適と基盤、事業会社なら現場と収益、グループDX会社なら専門性と実装が前面に出てきます。同じデータ活用でも、置かれる組織によって仕事の性質はかなり変わります。
商社のデータ人材の組織の置かれ方は、「商社らしさ」そのものでもある
結局のところ、商社のデータ人材が本体・事業会社・グループDX会社のあいだで働くという構図そのものが、総合商社という業態の特徴をよく表しています。総合商社は、単一事業を深く掘る会社というより、多様な事業を束ね、組み替え、つなぎながら価値を出す会社です。その中でデータ人材もまた、一つの部署に閉じるより、複数の組織にまたがって価値を出す存在になります。だから商社のデータ人材は、単なる分析者としてではなく、事業と事業、現場と本体、戦略と実装をつなぐ人として捉えるほうが、もっとも実態に近いです。