3章 – 本章のポイント2(絶対優位と比較優位)

ある財を生産する「強さ」を2人(あるいは2国)で比べるとき、見方は 絶対優位 と 比較優位 の2つに分かれる。結論から言えば、交易(分業して交換すること)で本質的に重要なのは絶対優位ではなく、比較優位である。

絶対優位とは何か

絶対優位とは、同じ財を作るのに必要なインプット(労働時間、原材料、労力など)がより少ない ことを指す概念である。
たとえばAとBがパンを作るとして、Aは1時間で10個、Bは1時間で5個作れるなら、パン生産においてAが絶対優位を持つ。要するに「単純に生産性が高い」のが絶対優位である。

この概念は直感的で分かりやすいが、交易の利益を説明するには不十分である。なぜなら、絶対優位は「どちらが速いか」しか見ておらず、他の財との兼ね合い を無視しているからである。

比較優位とは何か

比較優位は、ある財を作ることによって失われる別の財(=機会費用)がより小さい ことを指す概念である。
ここで重要なのは「時間当たりに何個作れるか」ではなく、「その財を作るために、他に何をどれだけ諦めることになるか」である。

機会費用とは、「Aを選ぶことで手放す、次に最良の選択肢」である。
生産の話では、ある財を作るために同じ資源(たとえば労働時間)を使う以上、別の財の生産を諦めることになる。この 諦めた量 が機会費用である。

なぜ交易の便益は比較優位に基づくのか

交易の本質は、各人が「全部をそこそこ作る」よりも、相対的に得意なものに特化して交換する ことで、合計の産出を増やす点にある。
ここでいう「相対的に得意」とは、絶対優位ではなく比較優位の意味である。

極端に言えば、ある人がすべての財で絶対優位を持っていても、比較優位の差は残り得る。つまり「全部速い人」と「全部遅い人」がいても、遅い人にも比較優位を持つ財があり得る。そのとき両者が比較優位に従って分業すれば、両者にとって利益が生まれるのである。

直観的に言い換えるなら、絶対優位は「腕力の強さ」だが、比較優位は「時間の使い方のうまさ」である。交易は後者、すなわち限られた資源をどう配分するのが最も効率的か、という問題に根差しているのである。