2章 – 演習と応用 3
生産可能性フロンティア(PPF)を「横軸=鉱工業生産量」「縦軸=クリーンな環境(汚染の少なさ)」として描くと、社会が保有する資源と技術の下で同時に達成しうる組合せの上限がフロンティアとして表されるのである。
1. PPFで示されるトレードオフ
鉱工業生産量を増やすには、一般にエネルギー使用や資源採掘、工場稼働が増え、汚染物質の排出(大気・水質・廃棄物など)が増えやすい。すると環境の質は低下し、縦軸で表した「クリーンな環境」は小さくなる。
したがってフロンティアは右に行くほど下がる右下がりの形となり、「生産量を増やすほど環境の清浄さを犠牲にしやすい」というトレードオフが可視化されるのである。
フロンティア上の点は、資源を完全に使い切り、技術的に効率的な状態を意味する。一方、フロンティア内側の点は、失業や設備の遊休、非効率な規制・制度、技術の未活用などにより「環境も生産量も同時に改善できる余地」がある状態を意味するのである。
2. フロンティアの形状(曲がり方)を決める要因
PPFがしばしば原点に対して外側にふくらむ(機会費用が逓増する)形になるのは、次の理由によるのである。
- 資源の異質性と適性:環境保全に向いた資源(浄化設備、人員、立地、技術)と、鉱工業生産に向いた資源(工業設備、熟練労働、鉱物資源)は完全には同じでない。まずは「転用しやすい資源」から回せるが、さらに生産を増やそうとすると「本来は環境向きの資源」まで生産に回す必要が生じ、環境悪化の追加的な犠牲が大きくなるのである。
- 汚染削減の限界費用の逓増:初期の汚染削減は比較的容易でも、汚染をさらに減らすほど追加的な削減は難しく高コストになりやすい。結果として、環境を一定だけ改善するために諦めねばならない生産量が増え、曲線がふくらむ形になりやすいのである。
3. フロンティアの位置(外側/内側)を決める要因
PPFの位置は「社会の生産能力」と「汚染を出しながらの生産のあり方」によって決まる。代表的要因は次のとおりである。
- 資源量:労働力、資本(機械・インフラ)、天然資源、土地、エネルギー供給能力
- 技術水準:生産技術だけでなく、省エネ技術・排ガス処理・再エネ・リサイクルなどの環境関連技術
- 制度・規制・執行能力:排出規制、排出権取引、環境税、監視・罰則の実効性など(同じ資源でも到達できる組合せが変わる)
- 自然環境の吸収能力:地形・気象・水循環・生態系などが持つ汚染の希釈・分解・吸収の限界
- 生産の構成:重化学中心かサービス中心かといった産業構造により、同じ「生産量」の環境負荷が変わるのである。
4. 「より少ない汚染物質で同量の電力を算出できる技術」が開発された場合
その技術は、同じ電力(=産業活動の基盤)を得るのに必要な汚染排出を減らす、すなわち環境負荷当たりの生産効率を改善する技術進歩である。よってPPFは次のように変化するのである。
- 環境軸方向に外側へシフト(または回転):同じ鉱工業生産量を達成しつつ、よりクリーンな環境を維持できるため、フロンティアは上方へ押し上げられる。
- 見方を変えれば、同じ環境水準を維持したまま、より高い生産量も可能になる場合があり、そのときは右方向にも拡張する。
- 特に「電力生産のクリーン化」が主効果なら、フロンティアは環境側により大きく張り出す形で外側へ移動(外方シフト)するのが基本である。
結局のところ、この技術進歩は「トレードオフそのものを消す」のではなく、同じトレードオフの下で達成可能な選択肢の集合を拡大し、犠牲を小さくする方向にフロンティアを動かすのである。