3章 – 演習と応用9
9.正誤と理由
a.「2国のうち1国がすべての財の生産において絶対優位を持っていても、貿易によって2国とも便益を得ることができる。」
正しい。
理由:貿易の利益は絶対優位ではなく、比較優位(機会費用の差)から生じる。片方の国が両財で生産性が高くても、相対的に得意な財と不得意な財があり、もう一方の国も相対的に得意な財がある限り、両国が特化して交換すれば双方の消費可能集合が拡大する。
b.「特定の才能ある人々は、すべての分野で比較優位を持っている。」
誤り。
理由:比較優位は「絶対的な能力」ではなく、機会費用の低さ(相対的優位)で決まる。非常に有能な人があらゆる作業を速くこなせても、その人がある作業に時間を使うと、別の作業で得られたはずの成果をより多く失うことがある。したがって通常、その人は「最も得意な分野」に比較優位を持ち、他の分野では比較優位を持たないことが起こる(比較優位は一人が全部独占する概念ではない)。
c.「ある交易がある人にとって有益である場合、他の人にとっては有益とはなりえない。」
誤り。
理由:交換が自発的に成立しているなら、通常は両者が「自分にとって得だ」と判断して取引しているため、双方が利益を得ることが可能である(ウィンウィンの取引が存在する)。もちろん、第三者に不利益が及ぶ外部性などがあれば別だが、文は一般命題として誤りである。
d.「ある交易がある人にとって有益である場合、それは他の人にとっても常に有益である。」
誤り。
理由:取引の当事者には利益があっても、他の当事者や第三者には不利益が生じうる。例えば、貿易で安い輸入品が入ると消費者は得をする一方、国内の競合産業の労働者や企業は損をすることがある。また外部性があれば、周囲に負担を押し付ける形で当事者だけが得をする取引も起こりうる。よって「常に」は成り立たない。
e.「貿易がある国にとって有益である場合、それは国内のすべての人々にとっても有益である。」
誤り。
理由:国全体としては貿易で総余剰(国民全体の所得や消費可能性)が増えることがあるが、その利益は一様に配分されない。輸出産業の労働者・資本家が得る一方で、輸入競合産業の労働者は賃金低下や失業などの損失を被りうる。つまり、貿易の利益は国全体で正でも、国内に勝者と敗者が生じるため、「すべての人々にとっても有益」とは限らない。